彼女が見送った背中の数はわからない。トニカクカワイイ第145話「喪失と喪失について」 このエントリーをはてなブックマークに追加 彼女が見送った背中の数はわからない。トニカクカワイイ第145話「喪失と喪失について」

トニカクカワイイ第145話「喪失と喪失について」

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ナサが自分の失った記憶を思い出せないまま一週間が過ぎた。
輝夜に手伝ってもらって痛みによるアプローチも取ったけど、それでも思い出せない。
そもそも何を忘れているのか、わからないのだから、記憶を思い出すのは難しいだろう。
普段生活してても、ちょっとしたことを忘れてしまったら思い出すのが大変なのに、
2年前の、しかも意識がハッキリしていなかった状態の事柄を思い出すのは難しい。
でも、そういうことに限って、ちょっとしたキッカケ、
もしくはそれと同じ状態を再現できれば思い出すのかな。

再現という意味では痛みのアプローチはそうなんだろうけど、
シチュエーションが違い過ぎるのも思い出せない原因か?

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司と会えない日々が続いて、このまま司と会えないんじゃないかという不安の中で、
慌てた様子の千歳が現れた。

ついに先行最終回で開示されていた、時子さんの逝去の日になってしまった。
時子さんが亡くなった後から司の姿が消えた。

ナサが思い込んでいたことの一つ「司の家族」について、
月読時子と鍵ノ寺千歳、そして司は家族ではない。

読者からは積み重ねられた示唆から、この三人が家族でないことはわかっていた。
でも、ナサからはそのことを察する情報を得ることはできてなかった。

千歳と時子さんは、司のことを家族と思っている。
でも、司はそうは思っていない。
そりゃあ、長い年月を生き続けてきた、これからもそうなるであろう司からしたら、
ほんの一時を一緒に過ごす存在だから、家族と思っていなかったのかもしれない。

千歳のセリフから
時子さんがいたから司が人と交わって生活していた。
だから時子さんの逝去したことで、その理由が失われる。
それを繋ぎ止めるのナサという存在だったんだろう。

そのナサが肝心なことを覚えていないのでは、
司がいる理由がなくなってしまう。

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いなくなった司を探すナサ。
一緒に歩いた道、公園、街のあちこちを探す。
それでも司の姿は見つからない。

司を見つけたい思いと、その一方で記憶を思い出せない自分という、もどかしさがある。
司が居そうな場所を思いつく。

それは鍵ノ寺の屋敷から抜けだしたときに辿り着いた教会。
ナサの予想通り、司はそこにいた。

ナサが司と会えないことによる抱いていた喪失感は想像できるんだけど、
時子さんを失った司の喪失感って想像できない。
司はこれまでも同じような想いをしてきたと思う。
もしかしたら、どうせいなくなる人だ、と考えて深い絆を結ばなかったのかもしれない。
でも、時子さんと司の間には、確かに絆があったと思う。

誰かがいなくなるという喪失感は、どこまでも慣れないものだろうし、
その絆が深いものであれば、喪失感も大きなものになるだろう。
そんな大きな喪失感を抱いている司に、ナサは何を言えるのだろうか。

司を探している間にも、ナサが懸念しているように
記憶を取り戻していない状態で何を言えるのか。
そこがないとどんな言葉を選んでも、不十分だと思うが......。


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